研究概要 |
レチノイドは上皮性組織の分化に不可欠とされており、レチノイン酸類縁体は既に皮膚や口腔病変の薬として臨床応用されている。しかし、レチノイン酸の上皮性組織の分化と形態維持に対する多面的な調節機能の全容は完全には明らかにされていない。歯周炎や白板症などの様々な口腔病変の発症における上皮細胞の関与とその役割の解明に有用なin vitro系として、SV40ラージT抗原トランスジェニックマウスの歯肉上皮から、不死化細胞株(GE1)を樹立した(J Oral Pathol Med.30:296-304,2001)。この細胞はSV40 large T抗原の発現により不死化していると同時に、機能保持細胞として通常の培養条件の下で重層する特徴をもち生理的粘膜上皮の性状をあらわす。この細胞系で、レチノイン酸による細胞増殖および重層化に関わる接着分子(デスモゾームカドヘリン)の発現制御について解析した。レチノイン酸はデスモゾームを構成するデスモグレインとデスモコリンのmRNA発現を有意に阻害し、細胞の重層化に必須のデスモゾーム形成を阻害した。また既にできあがっているデスモソームを構成分子の供給阻害を介して崩壊させることを超微形態とRT-PCRから明らかにした。レチノイン酸はサイトケラチン13mRNAも有意に減少させ、電顕所見においても、細胞内のトノフィラメントは減少していた。一方、微細形態において、ヘミデスモゾームも完全に消失したが、ヘミデスモゾームを構成する接着分子であるインテグリンα6とβ4のmRNA量に変動はなかった。GE1細胞の増殖はレチノイン酸によって阻害された。これらの結果から、レチノイン酸はGE1の細胞増殖を阻害し、ケラチノサイトとしての細胞分化を阻害し、重層化を阻害することが示された。しかし、レチノイン酸の複雑な生理的作用は、歯肉上皮基底層の細胞増殖、さらに基底層から始まり、有棘層、顆粒層、角質層と層ごとに異なる形態を示す細胞分化、そして終末分化したケラチノサイトにおこるアポトーシスなどの一連の現象がレチノイン酸によってどのように調節されているかを各ステージにわけて分析することによってはじめて統括的に明らかになるのではないかと考えられた。
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