本研究は、唾液腺を構成する個々の細胞や分子の働きが、唾液腺という臓器のなかでいかに統合され、臓器の全体性が生み出されているかについて解析したものである。唾液腺が腺房と導管という2つの上皮性セグメントから構成されていることに注目し1)唾液腺組織・細胞の形態形成の分子機構、2)臓器レベルでみた唾液分泌の分子機構を解析した。甲状腺侏儒症ラットrdwでは顎下腺の顆粒管がほぼ欠如していること、ベータガラクトシダーゼノックアウトマウスでは腺房と穎粒管のみに空胞構造が出現することなどを発見し、腺房や顆粒管というセグメント特異的分化機構の存在を明らかにした。高速共焦点レーザー顕微鏡でカルシウム動態の変化を調べ、ムスカリン刺激やATP刺激に対し、腺房では同調的、導管では非同調的応答を観察した。腺房にはギャップジャンクション分子であるコネキシンの発現がみられ、またギャップジャンクションの機能を抑制するオクタノール処理で同調的反応が消失したことから、腺房は機能的合胞体を形成していると考えられた。さらにIP3レセプターの分布も、腺房で均一、導管で不均一であった。以上の結果から、唾液腺のカルシウムシグナリングは、セグメント特異的に統合・調節されていると結論した。多様な細胞で構成されている臓器が全体性をうみだす機構の一端がカルシウムシグナリングの組織構築特異的統合であると推定され、本研究はそれを明らかにした最初の発見である。以上から、上皮のセグメント特異的分化が、唾液腺という臓器の全体性を規定する重要な基盤を与えていると結論した。
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