研究概要 |
平成12年度でラット下顎角部に骨折形成を施して作製した試料を用いて,骨折の治癒過程におけるTGF-βリガンド,BMPリガンド,シグナル伝達物質およびそのレセプターの局在を観察したいと考え,BMPおよびTGF-βのリガンドおよびレセプターの免疫染色を行った。本年度においては免疫組織化学および遺伝子発現の検索を行った。 BMPおよびTGF-βのリガンドおよびレセプターの遺伝子発現は,ほぼ同様の局在を示し,骨折後1日目では凝血組織周囲の結合組織のfibroblast-like cellおよび筋組織の結合組織細胞に観察され,この免疫反応は骨折後2日目ではより強かった。骨折後3日目では線維化が開始され,線維芽細胞の免疫反応は最も強かった。骨折後4日目以後では,軟骨形成とともに軟骨芽細胞,増殖期および休止期軟骨細胞に認められたが,肥大期軟骨細胞には免疫反応は認められなかった。また骨吸収部では破骨細胞にも強い遺伝子発現が観察された。骨折後7〜14日目では骨形成が盛んに行われ,骨芽細胞は強い遺伝子発現を示したが,ほぼ骨性治癒が得られた骨折後21日目以後では,細胞成分はほとんど遺伝子発現を示さなかった。また,two-color FISH法ではBMPおよびTGF-βのリガンドおよびレセプターの遺伝子発現は一致していた。 以上のことから,BMPおよびTGF-βは骨折治癒過程においてレセプターを介し,autocrine, paracrineに作用し,骨芽細胞や軟骨細胞の初期分化を促進するのみならず,破骨細胞を刺激して,骨吸収においても重要な役割を果たすものと考えられた。
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