当該研究期間内の成果として、ハイドロキシアパタイトと炭素からなるヘリカルスキャンCT用の標準試料を完成させることができた。この新しい標準試料の特徴は、(1)生体の骨組織の構成成分と同じ材料で構成されている。(2)5種類の異なる濃度の試料は、従来用いられていたCT用標準試料と異なり海綿骨ばかりでなく緻密骨をも包含する高いCT値を示す、(3)誤差5〜10%以内での生体無機質の測定が可能であることが確認された。などである。この測定精度に関しては、実際の下顎骨にこのHA-C標準試料を添付して、同部位を切り出して別の方法で測定結果を裏付ける、という従来報告の無い検証を行っている。このため標準試料の再現性は極めて高いと考えられ、新しい骨密度の測定方法が確立したと考えられる。 さらにヘリカルスキャンCT撮影が行われた20代から60代までの女性患者25名について、HA-C標準試料を下顎オトガイ部に添付してCT撮影を行い、緻密骨の無機質を定量したところ、20代では1.21±0.065345mg/mm^3、30代では1.31±0.067mg/mm^3、40代では1.22±0.076mg/mm、50代では1.25±0.10mg/mm、60代では1.07±0.074mg/mmという値が得られた。また、下顎骨の海面骨の無機質含量の定量値は、個体差が大きくCT値滴定の際のROIが小さい場合には、全く検出されない場合も認められた。 従来、生体無機質に関しては骨粗鬆症との関連から骨塩量が定量されているが、それらの大部分は椎骨の海綿骨についての情報である。しかし本研究で明らかとなったように正確に緻密骨の無機質含量の定量が可能となり、さらにヒトの下顎骨は骨粗鬆症の影響を比較的受けにくいとされていた従来の知見に反して、皮質骨においても閉経後の60代の女性で有意に骨塩量が低下していた。 以上のことから、当初の研究目的である緻密骨の非破壊的精密定量システムは、確立したものと考える。
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