研究概要 |
学生解剖実習遺体25体中3体に認められた、顎二腹筋前腹の破格と下顎骨の形態変化を検討した。 方法は肉眼観察と頭部計測点の,下顎頭最頂点・オトガイ点・顎角点を求めこれら3点を頂点とする三角形を作図し,面積比と3辺比で比較検討を行った。また、通報に従いパフイン切片による光顕観察を行った。 破格1例目は,左右側の前腹の下方に筋腹幅7.65mmと5mmの過剰筋束を認め,両筋束はそれぞれ顎舌骨筋へ移行していた。2例目は左側の前腹の舌骨付着部から14.4mmの腱を持って起こり最大筋腹幅6.1mmを持って38.4mm顎舌骨筋の下面に沿って斜走した後,反体側の二腹筋窩外側に停止していた。3例目は最大筋腹幅9.5mmの左側前腹下面で腱を持って起こり10.55mm顎舌骨筋の下面に沿って走行した後,最大筋腹14.7mmをもって左側二腹筋窩内側縁から右側二腹筋窩へ付着していた。 作図した三角形の面積比は,正常例で著名な左右差を認めなかったが,破格例は破格側の面積が大きくなる傾向にあった。さらに3辺比では,破格側においてオトガイ点と顎角点を結ぶ下顎体に平行な辺と下顎頭最頂点と顎角点を結ぶ下顎枝に平行な辺に著名な左右差を認めた。また,下顎頭の外側極と内側極を結ぶ延長線は正常例ではバジオン相当部で左右交叉していたが,破格例では破格側である左側に偏移していた。 これらのことから,左右の顎二腹筋の筋力が異なるため,それを補償するために左側の三角を構成する下顎体に平行な辺と下顎枝に平行な辺の長さに影響が認められたとも考えられた。さらに,下顎頭の非対称性は顎二腹筋が持つ弱い力が慢性的に作用し,咀嚼系の主体である下顎頭の形態変化に影響を与えていると考えられた。さらに、1例ではあるがこれまで報告例の極めて少ない、筋紡錘様構造を有するものが1例存在した。
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