研究概要 |
我々は,顎二腹筋前腹の破格筋束の存在が,顎顔面の非対称性との間にどの様な関係にあるかを目的に検討した。さらに,破格筋束の存在する下顎骨の微量元素についてEPMAにて比較検討した。 材料は,福岡歯科大学所有の頭蓋骨晒し標本50体および福岡歯科大学学生実習遺体65体130側を使用した。得られた結果は,次の通りである。 1)顎二腹筋の前腹の形態分類:顎二腹筋の破格の出現率は45.2%でこれまでの報告と近似していた。破格の分類を山田の報告に従い,原始型1体2側,起始型3体5側,混合型1体2側,複合型1体2側,顎角型1体1側であった。これらの支配神経は全て顎舌骨筋神経であった。 2)下顎骨と顎二腹筋の形態計測:晒し標本と遺体の計測から,外側棘,顎角点,オトガイ点を結ぶ三角形の各辺の比には,差を認めなかったが,過剰筋束を有する場合,顎角点とオトガイ点を結ぶ下顎体長軸方向に平行な辺,下顎枝の長軸に平行な辺に著名な差が認められた。 3)下顎骨と顎二腹筋の前腹の関係:t-検定では各計測項に有意差を認めなかった。しかし,Peaesonの礎関係数では,二腹筋窩の関係する9項目にをいて正常群で順相関を認めたのに対し,過剰筋束群では強い逆相関を認めた。 4)顎二腹筋の付着部骨質は,正常群も破格群も,皮質骨の厚さや微量元素の含有量に差を認めなかった。 5)遺体でのX線規格写真撮影と実測した骨の比較:写真上と実測値上では,前後的な計測値に有意差が認められ,注意を要することが確認された。 以上の結果から,下顎骨の非対称性は,顎二腹筋の弱い力でも慢性的に作用することで,下顎頭や下顎体に僅かな形態変化を与えると考えられた。
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