咀嚼は食物摂取から嚥下に至るまでの一連の運動により構成されており、咀嚼の進行に伴うこれらの運動の転換はスムーズに行われている。本実験では、線条体におけるドーパミンが咀嚼遂行に対してどのような役割を演じているかを知ることを目的とする。 <咀嚼中のドーパミン量の変動> ウサギの被殻におけるドーパミンの変動をマイクロダイアリシス法を用いて測定した。術者が順次口腔内に試料を挿入することにより、咀嚼を5分間持続させ、その間、被殻より回収した透析液中のドーパミン量を測定すると、安静時に比べて増大していることが明らかとなった。 <被殻へのドーパミン入力遮断による摂食行動の変化> 線条体へのドーパミン入力を遮断したときの摂食行動の変化を調べた。咀嚼を取り込み運動と臼磨運動に分類すると、一定量の飼料を摂取するための取り込み運動の回数が増加し、取り込み時間が減少した。筋電図記録と合わせると、破壊前では取り込み運動中にも臼磨を行っているにもかかわらず、破壊後はそのような行動パターンが減少する傾向にあることがわかった。 <咀嚼中の被殻ニューロンの活動> 無麻酔動物の咀嚼中に被殻からニューロン活動を記録すると、咀嚼運動中に発射頻度を変化させるものが認められた。これらは、咀嚼の開始から終了まで発射頻度を変化させたものと咀嚼の進行に伴う運動の転換に関係して、つまり、口腔内に飼料を挿入してから、臼歯部での臼磨運動に移行するまでの期間(stage I)でのみ活動を変化させるものが認められた。 今回得られた結果から、被殻へのドーパミン入力は咀嚼運動に関係して変化しており、特に取り込み運動に関係していることが示唆された。また、ドーパミン入力を受ける被殻ニューロンが、咀嚼の進行に伴う運動の転換に関係した活動変化を行うことから、ドーパミン入力は咀嚼の進行伴う運動転換に関与している可能性が示された。
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