3種の塩、NaCl、KClおよびグルタミン酸ナトリウム(MSG)に対する味応答に関しては発現機構の多様な仮説が提出されている。また、単一の味細胞がこれらの内の複数の味質に応答する。味質識別のためには各味質ごとに伝達機構あるいは伝達物質が異なる可能性がある。本研究の目的はこの仮説を検証することである。 これまでに上皮片付き味蕾標本を用いて、塩応答と酸応答また同じ塩でもNaClとKClではトランスダクションが全く異なることを明らかにしてきた。しかし、MSGに関する情報が十分ではなかった。それ故、本年度の前半はMSG応答の発現機構の解析に費やした。その結果、味受容膜への0.03〜0.3M MSG刺激により、実験に用いた味細胞の約30%に脱分極性(内向き電流)応答が、26%に過分極性(外向き電流)応答が観察され、脱分極性応答のみがうま味促進剤である0.1mM5'-GMPによって増強された。免疫組織学的な結果と総合すると従来唱えられているような代謝型グルタミン酸受容体ではなく、イオンチャネル型グルタミン酸受容体の関与が示唆された。 本年度の後半は、上皮付き味蕾標本を用いた局所味刺激法により上記3種の味刺激時に味細胞から放出される物質をカーボンファイバー(CF)電極による電気化学的測定法を用いた検出することを試みた。すなわち、CF電極をCF電極装着型電気化学検出対応型パッチクランプ用増幅器に接続する。上述の標本の基底膜側にCF電極を置き、味受容膜側だけを刺激し、その際に基底外側膜側から分泌される物質をCF電極と上記増幅器とによって計測することを試みた。しかしながら、現時点では伝達物質の検出には至っていない。味細胞のシナプス伝達機構を正常に維持するための酸素濃度や栄養条件、味蕾の保存条件等の検討中である。
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