研究概要 |
我々は微小電気刺激法および微小化学刺激法を用いて、ラットの前交連レベルの限局したmid-central striatumに開口筋のみに活動を引き起こす皮質・線条体ニューロン群の存在を明らかにし、この部位を線条件顎領域striatal jaw region;SJRと名づけた(Neurosci.Lett.,253:79-82,1998)。今回は浅麻酔ラット27匹を用いて、SJRの微小電気および微小化学刺激が顎筋のほかに、舌筋あるいは顔面筋にも活動を誘発するか否かを検討した。【結果】SJRの微小電気刺激は開口筋(顎二腹筋前腹)と舌の突出筋(オトガイ舌筋)に顕著なEMG活動を誘発した。しかし、閉口筋(側頭筋または咬筋)、舌の後退筋(舌骨舌筋)と顔面筋(上唇挙筋または広頸筋)には何の活動も誘発しなかった。このSJRの微小電気刺激による開口筋と舌突出筋のEMG活動は広範囲に及ぶ新皮質の除去後も出現し、またSJRへの50mMカイニン酸微量注入によって再現された。組織学的同定の結果、微小電気および微小化学刺激部位は共に、前交連に隣接する、小さな線条体中央領域に局在した。【考察】高齢社会を迎えた現今、向精神薬の長期投与により遅発性に(多くの場合は6ヶ月以上たってから)パーキンソン病に極めて類似した錐体外路症状を伴う「薬物性パーキンソン病」がよく見受けられる。この薬物性パーキンソン病に特発する遅発性ジスキネジアtardive dyskinesiaは最初、口の周辺に持続的で不随意的なふるえ-口舌ジスキネジアorolingual dyskinesia-として出現し、さらに進行すると四肢や躯幹にもふるえが生じてくる。口舌ジスキネジアの症状の詳細については未だ不明な点が多く、障害をこうむる咀嚼筋は開口筋なのか閉口筋か、あるいは両方共なのか、また咀嚼筋以外に舌筋、顔面筋も含まれるのかについては報告が見当たらない。長期のニューレプチック投与により線条体に過剰なグルタメート放出が起こり、その神経毒作用による線条体ニューロン死が遅発性ジスキネジアの原因であるとする最近の仮説に鑑みて、本研究結果は遅発性ジスキネジアにおける口舌ジスキネジアの線条体メカニズムの解明に役立つと考えられる。
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