研究概要 |
細胞の増殖、分化、アポトーシスのシグナルは密接に関連しあって機能している。また最近、これらのシグナル伝達成分はシャペロン機能を有するHSPファミリー分子により制御されるとの報告がなされてきている。 本研究ではヒト唾液腺腺癌細胞(HSG)におけるアポトーシス誘導経路にあるシグナル伝達成分とHSP90との相互作用を調べることを目的とした。本年度はまず、HSG細胞に対するアポトーシス誘導能を、それぞれ固有の経路を示すアポトーシス誘導剤、TNFα,シクロへキシミド(CHX),抗Fas抗体(CH-11)を用いて比較検討した。HSG細胞はTNFα処理に対しアポトーシス耐性を示した。CHXとCH-11単独では30-40%の細胞がアポトーシスを惹起したが、同時処理では80%と相加的増加を示した。つぎに、アポトーシスシグナルに関与する分子mRNAの発現をRT-PCR法により調べた。Fasシグナル伝達系に関与するFas,FADDやCaspase8の発現は強く認められたものの、TNFα系に関与するTNFレセプターの発現は弱かった。この結果はHSG細胞がCH-11でアポトーシスを起すがTNFαでは起きにくいという上述の結果を支持する。一方、HSG細胞をTNFα処理するとFas発現が数倍に増加したことからTNFαはFasによるアポトーシス誘導を増強させることが示唆された。現在、TNFα,CH-11刺激後のシグナル系の詳細をCaspaseとの関連から検索中である。 つぎに抗Fas抗体誘導アポトーシスにおけるHSP90の関与を調べた。HSP90の特異的阻害剤であるgeldanamycin(GA)でHSG細胞を14時間処理後CH11刺激を行った。その結果、CH-11単独刺激で30%だったアポトーシス細胞数が90%に、またCH-11+CHX刺激においては95%に増加した。このことからHSP90がアポトーシスシグナル伝達分子の制御に関与していることが強く示唆された。現在、抗Fas抗体誘導アポトーシス系においてHSP90と特異的に結合する分子を探索中である。
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