この研究課題は「ヒト唾液シスタチンの改造と実用化」だけに焦点を合わせているのではない。広範囲の生物資源から有益なシステインプロテアーゼインヒビターを網羅的に検索して治療薬として歯科医学や医療に役立てることを展望している。以下に得られた主要知見を述べる。1.唾液型シスタチンがヒト歯肉線維芽細胞表面のCD58分子を結合すると歯肉線維芽細胞内のNFκBが活性化されてサイトカイン(インターロイキン6ならびにインターロイキン8)の誘導発現が起こることを発見した。2.日本産ウナギ体表粘液中に低分子システインプロテアーゼインヒビターを発見した。このインヒビターがシスタチンスーパーファミリーに分類されるのかチロピンファミリーに属するかについては不明である。詳細な解析が進行中である。3.日本産ウナギの体表粘液には複数の生体防御分子が存在していることが判明した。分子群の中には歯周病菌(ポルフィロモナスジンジバリス)に対して結合活性を発揮する防御タンパク質も存在していた。4.新潟県産コシヒカリ由来米糠の加熱抽出液には歯周病菌(ポルフィロモナスジンジバリス)の増殖抑制活性が存在していることを発見した(特願2002-364053)。5.本年度の研究で開発したリバースザイモグラフ法を用いて米糠加熱抽出液の中に含まれるシステインプロテアーゼインヒビターを検索した。その結果、低分子量オリザシスタチンのほかに高分子量システインプロテアーゼインヒビターであると推定される2種類のタンパク質を検出した。分子量は何れも50〜70(kDa)であり、パパインやフィシンと強く結合していた。6.組換え型ヒト唾液型シスタチンのヒト皮膚に常在する菌に対する効果を調べた。その結果、唾液シスタチンにはヒト皮膚の常在細菌が原因で発生する体臭を抑制する効果が観察された(特開2002-308749)。
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