機械的刺激による骨細胞の膜イオン輸送系への情報伝達を解明する目的で、Whole-cell patch clamp法を用い、機械的刺激によるイオンチャネル調節機構への関与を検討した。実験には新生児ラット頭蓋骨より採集した骨細胞を用い、機械的刺激には外液の低浸透圧溶液刺激により生じる細胞膜伸展作用を用いた。低浸透圧刺激により細胞膨張と同期して外向整流性Cl^-電流が活性化された。このCl^-電流はDIDS・NPPB感受性で、陰イオン透過比はI^->Br^->Cl^->Gluconate^-であった。次に、ブロッカーによりCl^-電流を抑制した状態で、低浸透圧刺激を与えるとCl^-電流以外の外向整流性K^+電流が活性化された。また、この電流はTEA・4APにより抑制された。以上の結果より、骨細胞では低浸透圧による機械的刺激によりCl^-チャネルが活性化され、生理的条件下では細胞内からのCl^-放出が促進されることが解った。また、このCl^-チャネルが抑制された条件では、機械的刺激により主にK^+チャネルが活性化され、代償的にK^+放出が促進される調節機構が働くことも明らかとなった。従って、機械的刺激は複数のイオンチャネルを活性化しCl^-やK^+の輸送を促進することにより、機械的刺激による細胞容積変化の調節をしたり、細胞の膜電位を変化させその興奮性や細胞全体のイオン輸送系の駆動力を調節するものと考えられた。平成13年度は、これら機械的刺激により活性化されるイオンチャネルの性質を分子生物学的手法や免疫組織学的手法を用いて更に詳しく検討したいと考えている。また、交付申請書の段階で購入予定備品であった解析システムpCLAMP8.0はメーカー側の事情で納入時期が著しく遅れることが分かり購入を取りやめた。従って、平成12年度備品には、試薬や標本保存用のメディカルフリーザーと、データー解析用ソフトを使用するためのコンピューターを購入した。
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