研究概要 |
蛋白質脱リン酸化酵素阻害剤は口腔扁平上皮癌細胞(SCC-25, SCCKN, SCCTF)、ヒト唾液腺癌細胞(HSG)及びヒト骨肉腫細胞(Saos-2, MG63)にアポトーシスを誘導する(Morimoto et al., 2000;Morimoto et al., 2001)。これらの細胞のアポトーシスに蛋白質脱リン酸化酵素が関与し、その中でもPP1δは5-7個のドット様構造物として、核小体に強力に発現する。この存在様式はNucleolar Organizer Regions (NORs)の細胞内局在と酷似する(Morimoto et al., 2001)。アポトーシスをおこしていない細胞では核小体に5-7個のドット様構造物としてNORsが検出されるが、アポトーシス細胞では、この構造物は分解されて検出されない。また、アポトーシスを起こした細胞では分子量110kDaの蛋白の発現が減少し、逆に、分子量80kDaの蛋白が新たに出現し、その発現量は増加した(Morimoto et al., 2001)。ブレオマイシンに対し耐性を示すヒト口腔扁平上皮癌細胞(SCCTF細胞)と耐性をあまり示さないSCCKN細胞とを用い、両者の感受性の違いをアポトーシス誘導能を指標にして検討した。ブレオマイシンとその誘導体であるペプロマイシンはSCCKN細胞とSCCTF細胞にアポトーシスを誘導したが、SCCKN細胞でアポトーシスを誘導するペプロマイシの濃度はSCCTF細胞にアポトーシスを誘導する濃度よりも50倍高かった。つまりこれらの細胞の抗癌剤に対する感受性の一部はアポトーシス誘導能の差であった(Okamura et al., 2001)。我々は初期転写因子(Egr-1)がSCCKN細胞で恒常的に発現していること、オカダ酸がSCCKN細胞のEgr-1 mRNAと蛋白の発現を抑制し、そのDNA結合能を低下させることを見いだした。SCCKN細胞はEgr-1を常に発現することにより、癌細胞としての性質を維持し、その動向は蛋白質脱リン酸化により制御されている(Okamura et al., submitted)。
|