咀嚼障害が発現したとき、まず、その症状を引き起こした原因を特定することが必要である。しかし、下顎の運動は2か所の関節のきわめて複雑な協調作用によっておこなわれているため、正確に原因を特定することは困難である。従来は多くの場合、咀嚼時の下顎切歯部の運動軌跡を分析する方法がとられてきたが、そこで異常なバターンが認められても、そこから正確な原因を特定することは困難であった。また、咀嚼時の筋電図を記録する方法も考えられるが、従来の解析方法では同じく原因を特定することができなかった。そこで、私は咀嚼には咀嚼側と非咀嚼側との多くの筋群の協調運動によっておこなわれることに注目し、咀嚼時の筋群の筋電図を記録し、最大開口位から次の最大開口位までを一咀嚼周期とし、さらに、一咀嚼周期を20等分し、活動量時間を加味した分析をおこなった。また、単一の食品だけでなく咀嚼パターンの異なるであろう3種類の食品を咀嚼させた。そこで、このシステムを直接ヒトを対象にしたデーター分析をおこなうことも考えたが、まず動物実験をして、開発したシステムがヒトを対象に使用できるか否かを検索するために、まず家兎でこのシステムの可否を判定した。実験結果の詳細については小冊子に示しているとおりであるが、同一の筋でも食品の性状によって活動量にも、また最大の活動を示す時期にも微妙な違いが認められたし、当然のことながら他の咀嚼筋群との相関性にも違いが認められることも多かった。また、従来、咀嚼には深部筋が重要な役割を果たしていると言われてきたが、実際に咀嚼時の深部筋の活動に言及している報告はほとんどない。本研究では咬筋の深部前方都および後方部の活動パターンを記録し、それらの筋と他の咀嚼筋群との相関性を解明した。以上のことから、本研究で得られた結果から、本システムは、ヒトに対しても十分対応できるものと確信する。
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