ラット顎下腺発癌実験験系を用いたRT-PCR法による検索において、正常顎下腺および発癌実験の全期間を通じての病変におけるH-ras mRNAの発現が確認された。これらのRT-PCR法によって得られたDNA断片を用いてSSCP法により正常顎下腺の泳動結果を基準にして、DMBA埋入後3、4、5、6、9および12週の泳動結果を比較した。その結果、DMBA埋入後3週および4週では変異バンドを認めなかった。しかし、DMBA埋入後5週では15標本中1例、6週では5例、9週では13例、12週では15例すべてにH-rasの変異バンドを認めた。変異を示したバンドをポリアクリルアミドゲルより切り出し、再度PCR法により増幅した産物をオートシークエンサーにより解析した結果、H-rassのエクソン1コドン12のGGAがGAAに変化しており、その結果アミノ酸配列がグリシンからグルタミンに変化しての変異が現れ、この変化が組織の悪性化に関与するのではないかと考えられた。また、同じ発癌実験系において筋上皮のマーカーとなるカルポニンを用いた免疫組織化学的検索を行い発癌過程における筋上皮細胞の関与を検討した。その結果、導管様構造を呈する腫瘍胞巣の最外層にカルポニン陽性細胞を認め、筋上皮様腫瘍細胞形成が腫瘍の腺管状構造の形成に重要な役割を果たすのであろうとの結論を得た。 臨床材料における研究では、DNA array法を導入し、閉塞性唾液腺炎、多形性腺腫および嚢胞状腺腫について1185種の癌関連遺伝子のmRNAの発現量を比較検討した。唾液腺腫瘍においては核内転写因子やアポトーシス防御因子のmRNAの過剰発現を認め、閉塞性病変では免疫グロブリンの各種構成要素や血小板由来成長因子などのmRNAの過剰発現を認めた。今後、検索症例数を増やし、これらの遺伝子発現が唾液腺腫瘍の発生、増殖や閉塞性病変の導管様構造物の増殖にどのようにかかわっていくのかを詳細に検討していく予定である。
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