研究概要 |
レーザー処理象牙質に対するレジンの接着機構を検索する目的で,Er : YAGレーザー処理された象牙質表面や表層の形態学的変化,およびレジンとの接着界面の様相を超微細構造学的に検討した。 Er : YAGレーザー処理象牙質表面には,幅約1.0μm,深さ約1.5μmの亀裂や約1.3μmの高低差をなす層状構造物の発生がAFM観察により認められた。また,未脱灰試料をTEM観察したところ,レーザーエッチングによる表層の形態学的変化は認められず正常象牙質とほぼ同様で,酸エッチングされたような様相は確認されなかった。ところが,脱灰試料では表層約10-15μmに概形不明瞭でかつ横紋構造の消失したコラーゲン線維と思われる無定形の物質が認められ,その下層の正常象牙質部分との境界は比較的明瞭であった。さらに,レーザー処理象牙質表面におけるXPS分析の結果,ClsおよびNlsピークの明らかな減少が認められた。レジン-象牙質の接着界面のSEM所見においても,樹脂含浸層の下層には約10-12μmの幅でTEM所見の変性層に相当すると思われる層が認められた。 一方,レジン-象牙質の接着界面のSEM所見によると,接合状態は比較的良好であるが樹脂含浸層は回転切削面に比し菲薄であり,さらにその下層には約10-12μmの幅でTEM所見の変性層に相当すると思われる層が認められた。従って,前述の構造欠陥やこの変性層と正常象牙質との界面に歪みが集中し,レジンの接着性が低下したものと考えられた。 Er : YAGレーザー処理象牙質表面には,亀裂や層状構造物等の構造欠陥が形成され,また,表層には横紋構造が消失し概形不明瞭のコラーゲン線維を含む無構造な層が生成されていることが判明し,これらがレジンの接着性を阻害している可能性が示唆された。今後,CO2レーザーに関しても,同様に検討する予定である。
|