昨年度試作した疲労試験システムにより、歯の破壊機構の解明に向けて咀嚼による力学的環境を想定し、実験を行った。 齲蝕のないヒト抜去上顎小臼歯(単根)を用い、咬頭を同一規準で象牙質まで削合し、さらに削合面から深さ約3mm、幅約1mmの楔状切痕を近遠心(MD)あるいは頬舌(肌)方向に形成した。次いで、隣接面または頬側面に平面を形成し、切痕直下約1mmにstrain gaugeを接着して試験体とした。実験は打撃による衝撃破壊、疲労試験システムによる疲労破壊を行い、破断までの歪みの推移を追跡し、その後破断面をfractgraphy分析した。荷重方法は振幅暫増法を用い、陥入子先端角度は約60度とした。 衝撃破壊面には両方向の切痕試料とも衝撃中心と観られる平坦なMiller region(MilR)様部分を中心にMist region(MisR)、Hackle region(HacR)やRiver pattern(RivP)様のへき開構造が観られ脆性材料の破面に類似していた。疲労破壊ではMD方向では荷重回数約20万回、約95kgfで破壊した。破面は衝撃中心的部分が不鮮明で全体的にへき開構造を示し一部にMilRやMisR様構造が観察された。歪みは20kgf〜50kgf付近まで徐々に増加し20μm程度となり、その後100kgfまでほぼ一定で推移し歪みが約30μmの時に突然破壊した。BL方向では約570回、約84kgfで破壊し、破面は粗造でHacRやRivP様構造を呈した。歪みの増加が大きく当初20μm程度であったが破断直前では約80μmに達した。BL方向の切痕では顕著に少い荷重回数で破壊し、BL方向の損傷は外力への抵抗性を低下させるものと推測された。象牙質は脆性破壊構造を呈し、疲労破壊の典型であるStriation的な構造は観察されなかった。
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