本研究課題では、歯科医療において異種金属が接触しやすい場合を3種のグループに分け、異種金属接触腐食について調べた。チタン補綴物周辺では、チタンやチタン合金と接触することで、電位の高い歯科用貴金属合金からのAgやCuイオンの溶出が増加したが、その中でもチタンとType4金合金の組み合わせがイオンの溶出が少なく、歯科用インプラントに適することが明らかとなった。チタンと歯科用卑金属合金では、両者の電位が近いことから、貴金属合金との組み合わせより溶出イオンの増加が少なく、Niなどのイオン溶出が少ない純チタンおよびTi-6Al-4V合金とCo-Cr合金の組み合わせが、安全性の高いことがわかった。歯科用アマルガムでは、接触させたチタンの表面積比が極端に大きくなると、従来型および高銅型アマルガムからそれぞれSnとCuイオンが単独の5〜10倍以上も溶出し、単独では安定なアマルガムであっても接触腐食の危険性が示唆された。 歯科用磁性アタッチメント周辺では、磁性ステンレス鋼と歯科用貴金属合金を接触させると、両者の溶出イオンが増加したが、高耐食性のSUS444やSUS447J1などでは、その増加量は比較的少ないことが明らかになった。電位の非常に高いPt-Fe磁石合金との組み合わせでは、腐食電位が磁性ステンレス鋼の不動態域を越え、腐食が著しく進行するものもあった。このような高電位の磁石合金には、Cr含有量が30%以上の高Crステンレス鋼が望ましいことが示唆された。 歯科矯正装置周辺では、銀ろう付けしたCo-Cr合金およびステンレス鋼ワイヤーの接触腐食を調べた。これらのワイヤー単独では、ほとんどイオンを溶出しなかったが、銀ろうの表面積比が大きくなると各合金からの溶出イオンが増加し、単独ではほとんど溶出しないNiイオンの溶出が増加した。また、長期の浸漬では、ステンレス鋼に孔食が発生し、激しく腐食するものもあった。臨床的には、銀ろうの表面積比を出来るだけ小さくすることで総溶出イオン量を少なくする可能性が示唆された。
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