研究概要 |
歯科用レジン組成物の硬化過程において,ラジカルとの相互作用に基づくビスフェノールA存在量の動的な変化を,実際のモデル重合系を用いて詳細に検討した.ラジカル重合系内にビスフェノールAを共存させると,その濃度が高くなるほどほぼ直線的に誘導期間は増大し,ビスフェノールAが完全に消費されるまでラジカル生長反応は起こらなかった.つまり,ビスフェノールAはかなり効果的な重合禁止剤として作用し,レジンが硬化した場合には,その重合系内に存在し得ないことが明らかになった.フェノール構造を有する類似化合物とラジカルとの反応を比較,検討した結果,ビスフェノールA分子は2つのラジカルを捕捉して,分子構造が変化する反応機構が有力となってきており,現在多角的に集積された基礎的データの解析を実施しているところである. 歯科用レジンはその重合開始剤によってレジンの硬化挙動が特徴づけられることから,レジン組成物系内に存在する重合開始剤の種類に基づく影響も考慮されなければならない.重合開始剤を含めて様々な重合硬化条件下において総括的に検討した結果,重合開始剤の種類に応じてビスフェノールAとラジカルとの反応過程が微妙に変化する可能性が示唆された.これは,ラジカルを捕捉したビスフェノールA分子がそのまま失活するのではなく,再びラジカル重合素反応に関与していることを意味する.広く歯科用レジンに用いられている重合開始剤の過酸化ベンゾイルではこの影響は比較的に小さかったが,可視光線重合開始剤の場合には複雑な反応過程をたどることが示された.とくに,急速な重合硬化が起こる光重合では非平衡的にラジカル反応が進行する結果,部分的にビスフェノールAが消費される前に硬化が始まるか否かについて,溶出現象との関連性を含めて鋭意検討中である.
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