研究概要 |
可視光線重合型レジンでは,重合硬化が急速に進行するために非平衡的にラジカル重合が進行し,硬化後にビスフェノールAが残存する懸念があった.そこで,実際に可視光線重合型歯科用レジン組成物を試作して,硬化レジンからのビスフェノールAの動的溶出量や,溶出液の分解反応による新たなビスフェノールAの産生について,酸やアルカリの存在下において詳細に検討した. 試作レジン組成物には,典型的なコンポジットレジンのマトリックス成分を模倣して,モノマーとしてBis-GMAとトリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)の混合物を用い,可視光線重合開始剤としてカンファーキノンとジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)を組み合わせて用いた.硬化したレジンをメタノールで抽出して,ビスフェノールAの溶出量を測定したが,ビスフェノールAの溶出量はOppm(検出限界以下)であった.さらに,溶出物中にはビスフェノールA産生の原料となる化合物が含まれている可能性があるので,溶出液を強酸性及び強アルカリ性に保った場合の分解反応を検討したが,ビスフェノールA産生は全く認められなかった.また,同様の評価を市販のコンポジットレジンで行ったが,ビスフェノールAの溶出や分解産生は起こらなかった.さらなる安全性を確認するために,上述の試作レジンに予めビスフェノールAを配合して,再び評価を行った.その結果,ビスフェノールA添加量5ppmでは全く問題はなかったが,100ppm以上の添加量ではビスフェノールAの溶出が確認された. これらのことから,5ppm程度のビスフェノールAが含まれていても,重合過程で消費されるが,100ppm以上の高濃度では可視光線重合の非平衡的なラジカル反応の結果,ビスフェノールAは硬化後にも存在し,溶出し得るといえる.しかしながら,100ppm以上の高濃度のビスフェノールAをレジン組成物中に含有することはあり得ず,市販コンポジットレジンの評価で示されたように,可視光線重合レジンであっても,硬化物からのビスフェノールAの溶出や分解産生は実質的には全く問題がないと結論された.
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