研究概要 |
SiC, Al_2O_3, Fe_2O_3, SiO_2, Cr_2O_3砥粒を用いて研磨したチタン表面の化学的微細構造を,各種表面分析法によって調べた.研磨面にはSi, Al, Fe, Crなどが不均一分布をもって存在し,砥粒によってチタン表面は汚染される.これは研磨圧が高いほど顕著で,強圧研磨では科学的に清浄で物理的に滑択な鏡面を得にくい.微細な砥粒を用い,小さな力で時間をかければ比較的に清浄な鏡面が得られる.この汚染は,砥粒の切削作用によってチタン表面の不動態酸化皮膜が破壊されることにより,砥粒が反応性の強いチタンと高圧下で直接接触して反応した結果である.実際,最表面ではFeはFe^<2+>として存在し,AlとCrは3価の水酸化物として存在する可能性が示唆された.また,強圧で研磨した面はくすんでいて,あたかも陽極酸化されたかのように,淡い褐色または黄金色を呈する.つまり,研磨により表面酸化皮膜が厚くなることが表面分析の結果によって証明された.ただ,厚さを増した酸化皮膜がチタンの耐食性にpositiveに寄与するとは考えにくい.場所によって厚さが大きく変動し,酸化膜内部には砥粒構成元素も存在するからである.コロイダルシリカを用いると,実用的な意味で清浄な鏡面が用意に得られる.酸化皮膜が厚くなることもなく,研磨面にSiがほとんど検出されなかった.砥粒による切削作用と同時に,コロイド安定剤がチタン-砥粒の反応生成物や酸化皮膜を分解したと考えられる.擬似体液に浸漬すると,低圧で研磨した面に比較して,強圧研磨して酸化皮膜が厚い面にはCaとPが多く検出された.これとは逆に,タンパク質吸着層は汚染の少ないコロイダルシリカ研磨において厚かった.チタンのin vivoでの挙動を理解するには,加工面の化学的微細構造を知ることが重要であろう.研磨面性状がタンパク質吸着性に及ぼす影響について,さらに検討していく.
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