現在のインプラントは細菌感染によるインプラント周囲炎が発症し易く、脱落の危険性を孕んでいる。チタンは骨結合性に優れる反面、口腔内細菌も付着しやすく、表面を鏡面にしようとも粗面にしようとも、若干の量的差こそあれ細菌は付着しプラークが形成される。したがって、口腔に露出した部位は骨組織接触部に求められる性質とは異なる表面改質法が求められる。本研究では、耐摩耗性に優れた表面処理法であるドライプロセス法を用い、特に表面荷電を考慮した表面改質法を試みその有効性を検討した。鏡面の純チタン板に、イオン注入処理、陽極酸化処理、チタニア低温溶射処理、イオンプレーティング処理、イオンビームミキシング処理の耐摩耗性表面処理を施した。処理表面の物性をX線光電子分光法、薄膜X線回折法で評価するとともに、表面エネルギーおよびCaイオンの付着量を計測した。その後、表面改質された試料上で[^3H]-thymidineでラベリングしたP.gingivalis、および[^3H]-uridineでラベリングしたA.actinomycetemcomitansを1時間培養し、歯周病原菌の初期付着特性を検討した。さらに、生菌数測定法による抗菌性を評価した。これらの菌のin vitroでの初期付着試験の結果、Ca^+注入処理面で付着量が多く、Alumina被膜処理面で特異的に少なくなり、表面の荷電状態およびCaの存在が初期付着特性に関与していることが明らかとなった。また、F^+注入処理が両菌に対し有効な抗菌性を示した。その後、唾液中に存在する抗菌性タンパク質(ペプチド)をチタンに固定し、それらの発現を促すための表面改質法を検討した。プラズマ重合法や化学処理法であるトレシルクロリド処理で表面改質されたチタンを、抗菌性タンパク質Histatin5を含んだPBS溶液に浸漬し、その吸着量を水晶発振子マイクロバランス測定装置にて測定した結果、Histatin5の吸着量は表面改質されたチタンが未処理のチタンに比較して有意に増加し、これらの表面処理法の有用性が確認された。
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