研究概要 |
全身麻酔薬の作用機構のモデルとして当初は形質膜Ca-ATPaseを用いる予定であったが、同じ形質膜に存在するATPaseであるNa,K-ATPaseのほうが、精製が容易であり解析に多くの方法を用いることが可能であったので、ラット及びウサギ脳から精製したNa,K-ATPaseを用いて解析を行った。 1)全身麻酔薬イソフルランのNa,K-ATPaseに対する作用を調べて、次のような結果を得た。 (1)イソフルランは濃度依存的にNa,K-ATPaseの全活性、部分活性であるNa-ATPase活性,K-pNPPase活性を阻害し、それぞれのIC50値は、2.40%, 1.12%, 0.88%であった。 (2)Na,K-ATPaseのリン酸化反応中間体(EP)形成については、全活性が阻害される5%でEP形成は阻害されず、さらに7%まで濃度を上げてもEP形成量には変化はなかった。 (3)EPのADPあるいはKに対する反応性を調べたところ、Kに対する反応性が低下していた。 (4)以上の結果は、イソフルランはEPのKに対する反応性を低下させることによって、Na,K-ATPase活性を抑制することを示唆する。 2)吸入麻酔薬の水への溶解性は低く水溶液中での濃度決定は困難であった。そこで現在使用されている多くの吸入麻酔薬がフッ素原子をもつことに着目し、フッ素のNMRスペクトルによって吸入麻酔薬の水溶液中での濃度を決定することを試みた。その結果今回は、イソフルレンの濃度を決定する系を確立した。 3)局所麻酔薬(リドカイン、プロカイン、ジブカイン)のNa,K-ATPaseに対する作用を調べたところ、3薬剤ともEP形成の過程を抑制することによって、可逆的に活性を阻害し、その強さは臨床的に推定されるジブカイン>リドカイン>プロカインの順序であることを、明らかにした。
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