本研究は、口腔疾患に転写因子Nrf2がどのようにかかわっているのかを解析するのが目的である。まず、基礎的実験としてNrf2ノックアウトマウスをワイルドタイプマウスと比較し、酸化ストレスに対する転写因子Nrf2の応答を調べたところ、hemeoxygenase、peroxireoxin MSP23、A170などの酸化ストレスタンパク質がNrf2遺伝子制御下にあることを確認した。また、酸化ストレス剤BHA投与によりMSP23が上昇する現象も発見した。さらに、Nrf2遺伝子ノックアウトマウスのフェノタイプが歯の色調の変化であることを発見した。これらのフェノタイプを解析することにより、口腔疾患に及ぼす意義を検索した。まず形態的に、エタノール固定したマウスの上顎を臨界点凝結し、走査電子顕微鏡をもちいて表面の構造の変化を観察したところ、Nrf2ホモ、ヘテロ、のノックアウトマウスおよびワイルドタイプマウスいずれも異常は見られなかった。しかし、エネルギー分散型マイクロX線分析で、カルシウム、リン、鉄の元素を分析し定量をおこなったところ、カルシウムやリンの量には異常がなかったが、ホモタイプ歯質表面のでは鉄の量が少ないことがわかった。これらのことから、Nrf2の口腔病変として現れる変化は鉄が関与しているものと推定された。鉄の影響を調べるためにフェリチンの動態を指標として口腔における病変の原因を探ることを試み、マウス上顎切片に対して、フェリチンの免疫染色とin situハイブリダイゼーション、鉄染色をおこない、フェリチンと鉄の局在を観察したところ、ワイルドタイプマウスのエナメル質形成の途中で鉄の取り込み異常が起きてエナメル芽細胞が死んでいることがわかった。これらにより、Nrf2遺伝子が口腔病変におよぼす影響は、鉄の代謝もしくは輸送の異常であることが示唆された。
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