研究概要 |
第8番染色体短腕上の対立遺伝子の欠失は多くの種類の腫瘍で頻繁に起こっており、これらの欠失領域には癌抑制遺伝子が存在するものと推定されている。口腔癌では未だに第8番染色体の詳細な異常状況が検索されていなかったため、私達の研究グループは第8番染色体短腕上の異常状況を詳細に検討したところ、2ヵ所(8p22,8p12)の共通欠失点領域を口腔扁平上皮癌において同定した。これらの共通欠失領域のうち、8p22に一致してFEZ1(F37/Esophageal cancer related genecoding leucinzipper motif)遺伝子が単離された(Hideshi Ishii,et al.,1999)。そこで、FEZ1遺伝子が口腔扁平上皮癌の発生、進展に果たす役割を検討するために、以下の実験を行なった。 1) RT-PCR法により、FEZ1遺伝子のmRNAからcDNAを生成した。 2) 上記cDNAの電気泳動パターンから、FEZ1遺伝子が発現減弱・消失している頻度を調べた。 3) 上記cDNAの電気泳動パターンから、FEZ1遺伝子のmRNAのサイズの異なるものについて、その塩基配列を調べ、口腔扁平上皮癌におけるFEZ1遺伝子の発現異常の種類を調べた。 4) 以上を基に、口腔扁平上皮癌におけるFEZ1遺伝子の発現異常の種類と頻度を明らかにし、口腔扁平上皮癌発生・進展に果たすFEZ1遺伝子の役割を考察した。 結果: 1) 口腔扁平上皮癌50例のうち、36例(72.0%)においてFEZ1遺伝子の発現減弱・消失が認められた。 2) これら50例のうち3例でRT-PCRにより得られたcDNAのサイズが他の症例とは異なって、短かった。塩基配列を調べて比較したが、特徴のある異常パターンは認められなかった。 これらの結果と臨床的所見との相関関係を調べると共に、リンパ節転移巣についても検討中であり、また、今後、さらに症例を重ねて発現異常パターンに何らかの特徴が潜んでいないかどうかも検討する予定である。
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