研究概要 |
我々の樹立したヒト口腔扁平上皮癌細胞のうちHSC-3は他のクローンと異なりVEGF産生量が多く、血管新生亢進作用が強いため、移植実験においても増殖が可能である。この細胞の培養上清を血管内皮細胞に添加するとVEGF受容体のうちKDRの発現が上昇することが明らかとなった。本研究においては1)VEGF産生亢進の機序解明、2)他の血管新生促進因子の産生、3)血管新生抑制因子産生とのバランスによる血管新生調節の3点に関し研究を行った。その結果、1)HSC-3は転写因子であるSP-1が恒常的に発現しており、その結果としてVEGF産生が高まっていることが明らかとなった。2)HSC-3では消化器ガンで発現されているCOX-2、PGE2産生の亢進は認められなかったが、低分子ヒアルロン酸合成酵素であるヒアルノニダーゼ-1の発現亢進が認められるともに、その受容体で生存率と関係があると考えられているCD44ハ"リアント-3が本細胞で発現していることが明らかとなった。3)HSCからは血管新生抑制因子であるpigment epithelium-derived factor(PEDF)も産生されていることが明らかとなった。このPEDFは現在同定されている生体内血管新生抑制物質で最も強力なものであり、その作用発現調節は蛋白分解であると考えられてきた。そこで、PEDF抗体を作成し、その抗体を用いたWestern blot,およびPCR法でその産生、分解を調べたところ、PEDF産生がVEGFにより転写レベルで調節されていることが明らかとなった。 以上のようにHSC特に転移性の高いHSC-3では血管新生因子であるVEGF以外にヒアルロニダーゼ-1が産生されている一方、代償的な意味でVEGFで発現調節される血管新生抑制因子PEDFが産生されており、そのバランスにより血管新生が誘導され、転移、増殖することが明らかとなった。
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