研究概要 |
脊髄とは異なり、三叉神経核ではその解剖学的な違いにより同様にcoronalでのスライス作成では、求心線維刺激による延髄内興奮伝達の観察は困難である。本研究では、三叉神経脊髄路核のスライス標本の作成法を確立し、その興奮伝播のメカニズムを解析した。 1)Trに与えられた電気刺激はcoronalまたはsagittalのいずれの方向で作成されたスライスでも深層には伝達されなかった。一方、膜電位の変化と尿素渡銀染色での形態学的観察では、Mar, SG層の神経走行は吻尾側方向に広がっている特徴を示し、これらは一致していた。水平断で作成したスライス標本では、Trに加えられた刺激は三叉神経脊髄路核の深層に伝播され、尿素渡銀染色での観察ではTrからの線維が内層へ連続して広がっていた。従って脊髄領域と同じような中枢内興奮伝播様式を見るには三叉神経のスライス標本は水平断方向に作成することが適切である。 2)Trへ与えられた単発刺激が誘発する内層への興奮伝播は、CNQXにより減少することからグルタミン酸を伝達物質とし、AMPA/Kinate受容体を介していることが示唆された。高頻度でTrへ与えられた電気刺激は刺激終了後から内層へ強くまた大きく広がり、これは長時間持続した。これら内層への伝播はNMDA受容体拮抗物質MK-801、またはNK1受容体拮抗物質L-703.606の灌流によって抑制を受けた。したがって、高頻度刺激は三叉神経脊髄路核を長時間興奮させ、これはNMDA受容体またはNK1受容体を介した興奮伝播が関与していることが明らかとなった。 術後の異常感覚は末梢神経損傷により中枢神経の持続性興奮が存在することにより生じている可能性がある。侵害刺激は神経損傷により生じた損傷電流を求心性に送り、それによって脊髄路核で興奮の持続を生じさせることによって異常感覚などの発生させる可能性がある。
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