我々は唾液腺悪性腫瘍における転移関連遺伝子を同定するために次の2つの方法により検索を行った。一つは本腫瘍が腺癌であるということを考え、他臓器腺癌の転移に関連が報告されている遺伝子を解析し、唾液腺腫瘍での役割を調べた。一方、多数の遺伝子の発現を網羅的に解析可能なDNA chipを用い、転移能の異なる同一の唾液腺腫瘍由来の株を用いて関連遺伝子を検索した。 まず、指標としたのは、胃癌、乳癌で転移との関連がいわれるMUC familyである。口腔領域の悪性腫瘍は、扁平上皮癌と唾液腺腫瘍がほとんどであるが、その両者における発現の比較を行った。生検時の新鮮組織を用い、MUC1およびMUC2のmRNA発現を検索した。MUC1はE-cadherinによる細胞接着を阻害し、転移浸潤と密接に関連があると報告されている。我々が行った検索では、腺様嚢胞癌などの唾液腺腫瘍では、扁平上皮癌に比べて有意にMUC1-mRNAの発現が上昇していた。腺様嚢胞癌は緩慢な発育とは裏腹に局所の強い浸潤性、肺転移が特徴でもあり、この性質にMUC1が深く関わっている可能性が示唆された。また、E-cadherin強発現でも、転移浸潤能の非常に高い唾液腺腫瘍があり、いくつかでMUC1の強発現が確認された。 DNA chipを用いた検索には、転移浸潤だけでなく、細胞周期や血管新生などを含めた癌関連の300以上の遺伝子発現を網羅的に調べた。材料は上海第二医学院より供与を得た、同一腺様嚢胞癌由来で転移能の異なる2つのサプクローンACC2とACCMを用いた。高転移性のACCMでは局所浸潤に深く関与するマトリックスメタロプロテアーゼや血管浸潤に深く関与するVEGFなどが強発現する一方、ACC2では細胞接着に関与するインテグリンファミリーの発現が亢進するなど、概ね予想に合致した結果が得られた。
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