研究概要 |
口腔粘膜の癌化過程における各種転写因子の発現を調べ、いわゆる前癌病変のうち、真に癌化するものとそうでないものを判別できるか否かを検討した。 c-fosやc-junはprotooncogeneと呼ばれ、癌化を促進すると考えられている反面、転写調節因子AP-1を活性化して細胞の分化に関与したり、時にはapoptosisを促進して癌化を抑制するとの報告もある。c-fosやc-junはc-fosB, c-fra-1,c-junB, c-junDなどと遺伝子ファミリーを形成し、これらの遺伝子産物蛋白質は互いにダイマーを形成してAP-1を活性化することが知られている。このダイマーの組合せによって、次に発現する遺伝子が異る可能性が考えられる。 本研究では、各種の口腔粘膜前癌病変を対象に、c-fosの遺伝子産物c-FosをDABで、c-junの遺伝子産物c-JunをFITCでそれぞれ同一切片上に同時に染色し、上皮組織を観察してc-Fosが主に発現しているもの、c-Junが主に発現しているもの、c-Fosとc-Junが同時に高頻度に発現しているもの、c-Fosもc-Junもあまり発現していないものに分類した。 その結果、c-Fosとc-Junの両者が高頻度に発現している上皮組織は、異形性が強くて上皮基底層の排列に乱れがあるものが多かった。上皮基底層にはc-Fosもc-Junもほとんど発現していないものの中には明らかに癌化しているものと、反対に異形性の少ないものが含まれていた。c-Fosが主に発現しているものとc-Junが主に発現しているものは、いずれも異形性の強いものは少なかった。 以上のことからc-Fosとc-Junがダイマーを作ってAP-1を活性化する場合、細胞は増殖性に傾くことが示唆されたが、c-Fosまたはc-Junが他の遺伝子ファミリー蛋白質とダイマーを作った場合、その相手によって細胞分化、細胞増殖、あるいはapoptosisなどを促進しているものと考えられる。
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