研究概要 |
口腔粘膜の癌化過程における転写因子c-fosおよびc-junの発現を調べ、いわゆる前癌病変と呼ばれる病変のうち真に癌化するものとそうでないものとを判別できるか否かを検討した。 口腔粘膜病変としては、当科で保管していた白板症、扁平苔癬、扁平上皮癌などを対象とし、正常口腔粘膜としては、各種口腔内非腫瘍性病変の手術の際に得られた口腔粘膜の一部を、本人の許可を得て用いた。採取した材料はホルマリンで固定し、パラフィン包埋して薄切々片とした。 c-fosの遺伝子産物c-Fosはウサギ抗Fosポリクローナル抗体で反応させ、これにロダミンを結合した抗ウサギ抗体マウスIgGにて発色させた。c-junの遺伝子産物c-Junはヤギ抗Junポリクローナル抗体で反応させ、これにFITC蛍光抗体を結合した抗ヤギ抗体マウスIgGにて発色させた。両者を同一切片上で染色し、蛍光顕微鏡で観察した。染色性の差異により、c-Fos(+)/c-Jun(+),c-Fos(+)/c-Jun(-),c-Fos(-)/c-Jun(+),c-Fos(-)/c-Jun(-)に分けた。c-Fos(+)/c-Jun(+)は正常口腔粘膜上皮、白板症、扁平苔癬の基底細胞およびその近傍、角化層直下の顆粒細胞などに陽性を示す細胞を認めた。このことは細胞の分化に関連して発現していると考えられるが、細胞が癌化するか否かの判定には用いられない。 c-Fos(+)/c-Jun(-)は、正常口腔粘膜上皮に陽性細胞は少なかったが、浸潤性の扁平上皮癌、異形性の強い白板症や扁平苔癬の一部に陽性細胞を認めた。c-Fos(-)/c-Jun(+)は核分剖像の多い扁平上皮癌に散在性に認められた。以上の結果、c-Fos(+)/c-Jun(-)の白板症や扁平苔癬は癌化する可能性のある前癌病変と考えられる。
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