唾液腺疾患、口腔疾患とEBVとの関連の可能性を探るため、唾液腺疾患、口腔疾患105例について、EBV感染の関連を検討したところ、PCRでは口腔扁平上皮癌18/22例、線維腫11/21例、epulis 16/19例、白板症8/16例、多形性腺腫6/10例、乳頭腫6/9例、扁平苔癬7/8例でEBVゲノムが検出され、EBV DNAの発現率は68.5%であった。ISHではEBVのEBERおよびBHLF mRNAの発現部位は主にリンパ球に観察された。EBERとBHLF陽性細胞の局在は疾患によって様々であったが、扁平苔癬にはEBERおよびBHLF陽性リンパ球のlabelling indexが他の疾患に比較して有意に高値を示し、扁平苔癬の病因にEBV感染が関与している可能性が示唆されたが、その生体防御機構を解明するためにTRX発現を免疫組織化学的に検討し、さらに患者の血清TRX値をELISA法にて測定した。免疫組織化学的には口腔扁平上皮癌9/12例、白板症10/10例、扁平苔癬6/8例、Warthin腫瘍10例全例、多形性腺腫3/5例、好酸性腺腫1/1例でTRXの発現が認められた。発現部位は扁平上皮癌では腫瘍、白板症では粘膜上皮部、扁平苔癬では粘膜上皮部および一部の粘膜下のリンパ球にも陽性細胞が認められた。唾液腺腫瘍ではWarthin腫瘍、多形性腺腫、好酸性腺腫で腺腫部分にTRXの発現が認められた。TRXの発現部位はEBER陽性細胞の局在部位と一致する部位があり、EBV感染と感染細胞におけるTRXの発現との相関が示唆された。血清TRX(ng/ml)は健常者(12例)23.8±10.1と口腔扁平上皮癌患者(5例)38.1±11.9難治性口内炎患者(4例)44.1±3.9であり、口腔扁平上皮癌患者、難治性口内炎患者では健常者に比べて有意に高値を示しTRXは宿主生体の防御機構として働く可能性が示唆された。
|