本研究では、まず、実験的歯牙移動時に出現する破骨細胞を中心とした歯根膜構成細胞に対して、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)をはじめとした神経ペプチドの結合様相およびその変化について検索することを目的とした。また、ストレスによって出現するとされる熱ショックタンパク(heat shock protein; HSP)が、メカニカルストレスの一つである矯正力によりその発現様相が変化すると考えられたことから、本研究費の一部を利用して、生理的ならびに実験的歯牙移動時における臼歯歯根膜内HSP27の発現について免疫組織化学的に検索した。実験的歯牙移動は、Waldoの方法に準じて50日齢ウィスター系ラット第一、第二臼歯間にゴム片を挿入することで行い、灌流固定、脱灰後、凍結切片を作製して各種抗体に対する抗血清を一次抗体としたABC法により検討した。その結果、以下に示す知見が得られた。 1.生理的状態下で観察されたCGRP、Substance Pを含有する歯根膜内神経線維は、歯牙移動開始初期において一過性に減少あるいは消失するが、移動数日後に再度観察されるようになった。 2.神経ペプチドの局在についてみると、CGRPが骨形成を活発に行っている骨芽細胞上および吸収窩に存在する一部の破骨細胞上で、Substance Pは一部の破骨細胞上で認められた。また、in vitroにおいてCGRPの破骨細胞活性への影響をみると、isolated、unfractionatedいずれの破骨細胞に対してもCGRPは抑制的に作用した。 3.歯根膜内HSP27免疫染色強度は実験的歯牙移動にともない変化することが示され、HSPが歯牙移動という物理的あるいは化学的刺激に対する防御反応と関連していることが示唆された。
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