研究概要 |
不正咬合を有する、歯科矯正治療前の成人20名を被検者として、下顎の3次元運動軌跡を記録した。下顎の3次元運動軌跡の記録には、すでに開発されているシステム(Takada et al.,1994,1995)を用いた。被検動作は片側の習慣性臼歯部咀嚼とし、被検食品には物理的および化学的性状が既知であるシュガーレスチューインガムを用いた。歯科矯正治療前の下顎運動を定量的かつ客観的に評価するために、運動軌跡を特徴づける空間幾何学的変量と運動力学的変量および運動パフォーマンス(運動の円滑性)を示す変量を以下の方法で計算した。すなわち、単一咀嚼サイクルの下顎中切歯点の三次元的運動経路を最適に近似する、時刻tを変数とする数理モデルf(t)を求め、f(t)を用いて、時刻tを変数とする空間的運動距離などの時間的変化を表わす数理モデルg(t)、また運動ベクトルの時間的変化を表わす数理モデルv(t)、また時間t内で運動の円滑性を示す変量C(Nelson.,1983)を求めた。これらの計算には、運動力学的、空間幾何学的解析用およびシステム同定用のソフトウェアーパッケージを用いた。 また、正常咬合を有する成人についても、同様の被検動作をさせ、下顎の3次元運動軌跡を記録した。そして、得られた下顎運動軌跡のデータから、運動軌跡を特徴づける空間幾何学的変量と運動力学的変量および運動パフォーマンス(運動の円滑性)を示す変量を求め、不正咬合を有する成人についてのそれぞれの計算値と比較した。その結果、不正咬合を有する成人と正常咬合者とでは、その下顎運動機能に有意の差があることが明らかとなった。
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