本研究は、成人型歯周疾患原因細菌であるPorphyromonas gingivalis(P.gingivalis)の線毛が、ヒト心臓血管系細胞に対してどのような機能的役割を持つかを、アテ-ロームおよび血栓形成誘導の可能性を調べることにより検証したものである。 1.P.gingivalis線毛は、ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC)に特異的に付着することを放射性同位元素で標識した線毛と非標識線毛を用いた競合付着阻害実験により証明した。 2.P.gingivalis線毛は、アテローム形成の初発段階において重要な現象である血管内皮細胞(ここではHUVEC)に対するヒト単球の付着を誘導・促進した。 3.P.gingivalis線毛は、ヒト冠動脈内皮細胞(HCAEC)に特異的に付着する。 4.P.gingivalis線毛は、HCAECからのトリプシン産生を誘導する。 日本国民の主要死因のひとつである心疾患を発症する重要なイニシャルイベントとして、冠動静脈における動脈硬化、および異常血栓の形成がある。近年、成人型歯周疾患が本症の重要なリスクファクターであることが示されるようになってきた。しかし、これまでこれを裏付ける基礎的知見はなかった。よって今回示した上記の実験的査証は、これまで報告されている、歯周疾患が心疾患の重要なリスクファクターとなりうることを強力に支持する基礎実験的証拠となり、口腔保健の増進が全身疾患の予防、とりわけ三大死因のひとつを予防するための手掛かりとなるもとのして興味ある。
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