研究概要 |
歯科矯正治療は顎骨、歯槽骨の骨添加を伴う治療であり、この課程を促進できれば治療期間の短縮や後戻り防止に大きく貢献できると考えられる。近年、低出力レーザー照射による骨形成促進作用が報告されているが、そのメカニズムを含め詳細は不明である。骨芽細胞は自ら種々の骨形成促進因子を産生しており、また、それらの多くは転写因子Cbfa1/Pebp2αA(Komori et al.1997)によって転写調節されていることも明らかになった。そこでレーザー照射による骨形成促進作用に局所因子発現が関与しているかを検討するとともに、最も効果的なレーザー照射条件を見い出すことを目的に本研究を行った。 妊娠ラットより摘出した胎仔から骨芽細胞を採取、培養し、Ga-AI-As半導体レーザー(パナラス1000、波長830nm、出力500mW)を細胞層に1回10分(36J)照射した。また1Hz,2Hzおよび8Hz(50%のパルス波)で10または20分照射した。各処置を行った細胞を21日間培養後Von-Kossa染色を行い、dish内のbone量を定量した。また照射後、細胞の培養上清を3日ごとに採取しIGF-IおよびPGE_2の産生量を定量した。さらにリコンビナントIGF-Iや抗IGF-I抗体の濃度を変え作用させた系、抗IGF-I抗体を作用させレーザー照射を行う系により、これらの処理がbone nodule量に与える影響を検討した。 その結果、リコンビナントIGF-Iの濃度依存的にbone noduleの量が増大し、抗IGF-I抗体の濃度依存的にnodule量が減少した。またレーザー照射では最高濃度のリコンビナントIGF-I作用と同程度のnodule形成促進が見られたが、抗IGF-I抗体作用によりその効果は無くなった。さらにレーザー照射はIGF-I発現をタンパク、遺伝子レベルで促進し、タンパク発現はnodule中央の細胞のみに見られた。しかしPGE_2産生には影響を与えなかった。 以上より、低出力レーザー照射は骨芽細胞のIGF-Iのタンパク、遺伝子発現促進を介してbone nodule形成を促進しているのがわかった。またパルス照射実験では1および2Hzの低周波パルスが骨形成を強く促進することがわかった。これらの現象とCbfa1/Pebp2αAとの関連性を現在検討中である。
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