研究概要 |
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は、難治性の院内感染の病原菌として注目を集めている。従来、歯科医院でMRSAに注意が払われることはほとんどなかったが、近年のインプラント治療などの普及に伴い、一般歯科医院においても外科的処置を行う機会が増加しており、歯科の分野でも院内感染に留意する必要性が高くなっている。さらに、ごく最近、バンコマイシンに対する耐性を有するMRSAの分離が報告され、医療関係者に大きな衝撃を与えた。本研究では、歯科医院におけるMRSA汚染状態を調査し、バンコマイシン耐性のMRSAが検出されるかどうかを検討することを目的とした。 まず、MRSAを簡便に検出するためPCR法を利用した検出法の検討を行い、MRSAを効率良く検出する実験系を確立した。これは、サンプルをStaphylococcus110寒天培地に塗沫し出現したコロニーをTE緩衝液に懸濁し、98度で10分間加熱したものをDNA試料とし、MRSAのmecA, femA, IS431の存在をmultiplex PCRによって検出する方法である。mecAであった菌については、さらにコアグラーゼ産生、ブドウ球菌培養同定キットによって生化学性状と菌種を決定した。この方法を用い、まず、健康なボランティアの口腔内のMRSAの存在比率を調べた。その結果、mecA陽性でメリシリン耐性菌と判断された菌を有する被験者の割合は約7%であった。これらのうち、femA陽性、IS431陽性で黄色ブドウ球菌と判別された菌は少数であり、多くはコアグラーゼ陰性のブドウ球菌であった。菌種としては、Staphylococcus epidermidisおよびStaphylococcus hominisが高率に検出された。また、一般歯科医院を訪問した歯科治療受診患者の口腔内MRSAの分布を調べると、mecA陽性でメリシリン耐性菌と判断された菌を有する被験者の割合は8%であった。これらのうち、黄色ブドウ球菌と判別された菌は少数であり、多くはコアグラーゼ陰性のブドウ球菌であった。最後に、大阪大学歯学部病院を受診した障害者の口腔内MRSAの分布を調べると、一般受診患者よりも高頻度でメチシリン耐性ブドウ球菌が検出された。この場合でも黄色ブドウ球菌は少数であり、耐性菌の多くはコアグラーゼ陰性のブドウ球菌であった。この結果は、通常の歯科治療受診者における口腔内細菌としてMRSAは1%程度で少ないものの、メチシリン耐性のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌がかなり広く分布していることを示している。加えて、障害を有する歯科治療受診者の口腔内にはメチシリン耐性ブドウ球菌が一般受診者に比べてかなり多いことが明らかになった。
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