研究概要 |
海洋微生物である渦鞭毛藻が生産するポリ環状エーテル天然毒は,神経細胞のナトリウムチャンネルやカルシウムチャンネルに特異的に作用する強力な神経毒である。それらは,炭素数が25〜140個に及ぶ一本の炭素鎖が酸素原子によって6員環から9員環のエーテル構造を形成し,しかもそのエーテル環が連続的に梯子状に連結された極めてユニークな巨大分子構造体である。このポリ環状エーテル海洋毒に最も頻出する共通基本構造は,6員環エーテルが連続的に連結されたポリテトラヒドロピラン構造である。本研究では,このポリテトラヒドロピランの高効率的合成法の開発研究を実施した。 今回開発した合成法は,まずはじめにヒドロキシメチル基を有するテトラヒドロピラン誘導体をトリフルオロメタンスルホネートに誘導したのち,リチウムアセチリドとカップリングしてアセチレン誘導体に変換した。次いで,この化合物を再びアセチリドとしたのち別のテトラヒドロピラン誘導体と反応させて両者を連結した。アセチレン部をルテニウム触媒をもちいた酸化反応により1,2-ジケトンに変換後,酸処理して一挙にジヘミケタール環を構築した。このジヘミケタールのアセタール水酸基をメチル化してメチルエーテルへと変換したのち,メチルエーテル部をルイス酸存在下トリエチルシラン還元することによって4環性の6員環エーテルシステムを効率良く合成することに成功した。本合成法は収束型合成法であるので,ポリ環状エーテル天然毒合成の有用な方法論となると思われる。
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