アルツハイマー病、プリオン病などの神経変性疾患は、正常なタンパク質が正しく折りたたまれないこと、いわゆるミスフォールディング、により生じる異常タンパク質が原因となり引き起こされると考えられる。本研究は、脳内タンパク質のフォールディング、ミスフォールディングの銅イオンによる制御の分子メカニズムを明らかにすることにより、神経変性疾患における銅イオンの役割を明らかにすることを目的とする。平成12年度に行なった研究により得られた成果は次の通りである。 1.アルツハイマー病の原因のひとつである、アミロイドβペプチド(Aβ)の凝集は、亜鉛イオンによって効率的に促進されることが知られていた。しかし、銅イオン共存下では亜鉛による凝集が阻害されることが明らかになった。さらに、ラマンスペクトルの解析から、Aβ凝集の促進と抑制のメカニズムを解明した。亜鉛はAβ中に3残基存在するヒスチジンに結合し、分子間架橋を形成する。これに対し、銅はヒスチジンとその周囲のアミド基を配位子として分子内キレートを形成するため、亜鉛による分子間架橋を競合的に阻害する。一方、銅もある一定レベルよりも高濃度になると、それ自体Aβ凝集能を持つようになる。このAβ凝集の原因となるのは、銅のチロシン残基への結合であることがわかった。 2.銅イオンはプリオンタンパク質のコンホメーションに対しても大きな影響を持つ。銅が結合することにより、タンパク質内にβシート構造が誘起され、さらにアミロイドの形成が起こる場合がある。一方、逆にβシート構造を破壊する場合もある。これらの作用の違いは、銅が結合する部位の違いにあると考えられる。
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