1.アルツハイマー病の原因のひとつである、アミロイドβペプチド(Aβ)の凝集は、亜鉛イオンによって効率的に促進されることが知られていた。本研究者は、銅イオン共存下では亜鉛による凝集が阻害されることを明らかにした。亜鉛はAβ中に3残基存在するヒスチジンのNτ原子に結合し、分子間架橋を形成する。これに対し、銅はヒスチジンのNπ原子とその周囲のアミド基を配位子として分子内キレートを形成するため、亜鉛による分子間架橋を競合的に阻害する。銅イオンのAβ凝集阻害効果は、CU/Aβモル比が4付近で最も強い。これより高濃度になると、銅はそれ自体Aβ凝集能を持つようになる。このAβ凝集の原因となるのは、銅のチロシン残基への結合であることがわかった。 2.鉄イオン[Fe(III)]も強いAβ凝集能を持つことが知られている。本研究者は、Aβの鉄イオン結合部位を調べた。AβにFe(III)イオンを添加すると褐色の沈殿を生じた。上清と沈殿を分離した後、各々の514.5nm励起ラマンスペクトルを測定したところ、沈殿からは金属と結合したチロシネート(Tyr^-)のスペクトルが得られた。このスペクトルは、可視領域のTyr^-→Fe電荷移動吸収に共鳴することによりTyr^-の散乱強度が顕著に増大したものである。一方、上清から得られたスペクトルにはTyr^-の共鳴ラマンバンドと他のペプチド部分の非共鳴ラマンバンドが共に観測された。このスペクトルの解析から、3個のHisはFe(III)と結合していないことが明らかとなり、Fe(III)の主な結合部位はTyr10のフェノール酸素であることが示された。
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