研究概要 |
ニワトリリゾチーム及び4-oxalacrotonate tautomeraseにおいて、基質類似体存在下で酵素の分子運動の増大が認められた。これらの2つの酵素で観察される現象の一般性を調べるために研究を行った。対象とする蛋白質は、既に複合体との搆造解析が行われているリボヌクレアーゼT1(RNase T1)とヒトリボヌクレアーゼ3(ヒトRNase3)を選んだ。NMRを用いて、酵素の動的な挙動について解析するため、これらの酵素のcDNAを酵母Pichia pastorisに導入し、窒素核を^<15>N均一ラベル化することを試みた。RNase T1を高発現する酵母を選別し、活性で調べたところ、1L培養あたり10mgのRNase T1を分泌する酵母を得た。一方、RNase3の大量に分泌する株を選別しようとしたが、SDS-PAGE(CBB染色)で分泌は確認されなかった。この酵素のcDNAにはPichia pastorisでほとんど使用されないArgのコドン(CGG)が含まれていたので、これをすべてArg(AGA)に変えて、分泌発現を行ってみたが分泌は確認されなかった。そこで、RNase T1に焦点をあて研究を進行した。^<15>Nラベル化したRNase T1を調製し、その^1H-^<15>N HSQCスペクトルを測定し、^<15>N核の帰属を終了した。基質類似体共存下での^<15>N核の帰属、基質類似体共存下で基質類似体存在下及び非存在下で、プロトンの飽和時・非飽和時の^<15>N-^1H間の核オーバーハウザー効果(NOE)を評価した。また、種々の^<15>N核の縦緩和及び横緩和時間を測定した。その後、各^<15>N核の動的挙動をNOE、縦緩和及び横緩和時間を基に、モデルフリーアナリシス法を用いて、酵素の基質類似体(3'GMP)存在下非存在下での動的挙動を比較した。基質非存在下でRNase T1は全体的にオーダーパラメーターが大きく(1に近く)、RNase T1は硬い構造をもっていることがわかった。基質共存下では、51,63,84近傍で動きが動大したが、43,92近傍では逆に動きが制限された。以上のことから、従来報告されてきた酵素-基質複合体形成時に酵素が硬い構造を取るという考えとは異なり、ニワトリ、ヒトリゾチーム、4-oxalarocrotonateと同様にRNaseT1において基質類似体存在下で酵素の分子運動の増大が認められることがわかった。
|