研究概要 |
近年、虚血再灌流や組織障害に伴う炎症反応の発症・進展に活性化された好中球が深く関与することが明らかにされている。その機序としては、活性化された好中球より細胞外に遊出したスーパーオキサイドによるヒドロキシラジカルおよびパーオキシナイトライト等の細胞障害性物質の産生によると考えられている。本研究は、これらの障害性物質の生成を有効に抑制する手段として、炎症局所に浸潤した好中球の近傍にフリーラジカルの産生を抑制する抗酸化酵素を送達・貯留させ、これら障害性フリーラジカルを無毒化する方法の確立を目的としたものである。 活性化した好中球による組織障害は急性であり、血管内皮に接着した段階で活性酸素種を産生している可能性がある。そこで、血管内腔でのスーパーオキサイドを過酸化水素に還元する血液滞留性のスーパーオキサイドディスムターゼ(SOD)としてポリエチレングリコール(PEG)-SODの調製を試みた。さらに、SOD mimicsとして知られるニトロキシドスピンプローブとPEGとの複合体を調製した。次に、炎症局所の血管外マトリックスに存在する活性化好中球が膜に発現しているヒアルロン酸レセプター(CD44)に対するリガンドであるヒアルロン酸(HA)をSOD mimicsであるニトロキシドスピンプローブ(TEMPO)に結合させたHA-TEMPOを合成した。HAは分子量100万Daの鶏冠由来HAを出発原料とし、ヒアルロニダーゼ消化により低分子量HAを調製し、用いた。 これらのSOD mimicsの生体内における動態解析を行ったところ,血管内滞留性,炎症局所貯留性を有する機能性分子であることが認められた。また、これらを虚血再灌流障害モデルに適用したところ,炎症の指標である浮腫の抑制が認められたことから,これらの複合体はフリーラジカルの無毒化に関与していることが生体系において示唆された。
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