研究概要 |
本研究は、シクロデキストリンの包接機能を利用して、医薬品の固体物性を分子レベルで制御することを企図する。本年度は、溶解性が低く、結晶多形により溶解性が変化するスルフォニル尿素系経口糖尿病治療薬トルブタミドをモデル薬物として、その結晶化・多形転移挙動を詳細に検討した。さらに、トルブタミドの結晶化・多形転移に及ぼす非晶質性2-ヒドロキシプロピルβ-シクロデキストリン(HP-β-CyD)の影響を検討し、以下の基礎的知見を得た。 1.トルブタミドの結晶多形Forms IおよびIIは、同一の水素結合ネットワークで結晶を形成するが、末端のフェニル基とブチル基のコンフォメーションは著しく異なることを単結晶X線構造解析により明らかにした。トルブタミドを噴霧乾燥すると、新規結晶多形Form IVが生成し、Form IVは保存に伴い0次機構に従ってForm IIへ転移し、さらに長時間保存すると1次元核成長機構に従って安定形Form Iへ転移した。 2.各種スペクトル法(UV,CD,NMR)を用いて、トルブタミドはHP-β-CyDと水溶液および固体状態でモル比2:1(ホスト:ゲスト)の包接複合体を形成することを明らかにした。空洞径が小さいα-CyDはブチル基を優位に包接し、一方空洞径が大きなβ-CyDはフェニル基を優位に包接することが明らかとなった。 3.トルブタミドをHP-α-CyDおよびHP-β-CyDと噴霧乾燥すると非晶質の複合体を形成した。HP-α-CyD中のトルブタミドは保存によりForm Iへ結晶化したが、HP-β-CyD中ではForm IIへ転移した。複合体からのトルブタミドの結晶化は吸湿性や粘性などの環境因子よりもCyDsによる包接作用が大きいことが明らかとなった。 以上の知見は、CyDsの包接作用を利用して固体薬物の結晶化経路、結晶成長、多形転移などの制御が可能なこと示唆するものあり、結晶工学へのCyDsの有効利用が期待された。
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