オリゴペプチドのアミノ酸配列により遺伝子キャリアーとしての能力に大きな相違があることをこれまでに見いだしている。すなわち、アミノ酸としてリジンの他、トリプトファン、システインを含むペプチドで高い遺伝子導入能力があることが判明している。そこで導入能力の差異を合成オリゴペプチドとDNAとの親和性、複合体の大きさ、形態の面から検討した。DNAとペプチドとの親和性はエチジウムブロマイドを用いた蛍光排除法により調べた。一量体に比ベシスチン結合を含む2量体で親和性が高かった。更にリジンだけから成るペプチド及びその比率の高いペプチドではDNAへの結合親和性が高く、リジンの一部をトリプトファンに変えたペプチドでは親和性は著しく低下した。しかし、DNA複合体の電気泳動実験では、これらのペプチドに於いても複合体形成が確認され、遺伝子導入にはDNAとの強い結合を必ずしも必要とするものではないと考えられる。形成されるDNA複合体を原子間力顕微鏡で観察すると、ペプチド濃度に依存して形態が変化しトランフェクションの至適濃度では大きな凝集体(数十μm)として観察された。この凝集体は、柔軟な編み目構造を持っていた。細胞への遺伝子導入過程でこの凝集体がどのような役割を持つのかこれからの課題である。なお、動的光散乱法を用いた複合体の粒子径測定では、重量的寄与は僅かであるが0.1μm程度の粒子が観測されており、比較的小さな粒子の寄与についても検討する必要がある。
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