研究概要 |
人工ニューラルネットワーク(ANN)は,脳の神経細胞網の構造の一部をコンピューター内に構築したものであり,複雑なパターンの認識を含む様々な問題の解決に応用されている.本研究では,ANNを利用した定量的最適化法の開発を試みるとともに,この手法を応用することによって新規経皮・経粘膜吸収システムの創製を試みた. メントールのO-アルキル誘導体を出発物質とし,35種類の経皮吸収促進剤を合成した.ケトプロフェンの経皮吸収に対するこれらの化合物の促進効果をラットにより測定した.また皮膚に対する刺激性を組織学的に検討し,刺激の程度をスコア化した.ANNを用いて定量的構造活性相関を行った結果,活性発現には化合物の疎水性(logP),分子サイズ(Steric energy)に加えてHOMO,LUMO等の電子的パラメータが重要な因子として働くことが示唆された.また,一連の化合物のなかで,促進活性が強く皮膚刺激性の軽微な化合物として1-O-ethyl-3-butylcyclohexanol(OEBC)を見いだした. モデル製剤としてケトプロフェン含有アルコール性ヒドロゲルを選び,ANNを利用した多目的同時最適化法を適用することによって,ヒドロゲル調製条件の最適化を試みた.製剤処方中のOEBCと促進活性及び皮膚刺激性との間には非線形性の相関関係が見られ,ANNを利用することによって両者の関数関係の高精度な近似が可能となった.最適化された処方の特性値,促進活性と皮膚刺激性は,ANNによる予測と高度に一致し,本手法の有用性が示された.現在,生理活性ペプチドの消化管粘膜吸収における剤形因子の影響についてANNによる研究を進めており,今後本手法の汎用性について明らかにしていく予定である.
|