研究概要 |
前年度までの研究成果に基づき,今年度は製剤因子と特性値間の相関モデル作成プロセスに人工ニューラルネットワーク(ANN)を利用する多目的同時最適化法の開発を目的として以下の研究を実施した.通常のANNは入力層,中間層,出力層から構成される階層型構造を持ち,各層には複数のユニットが配置される.しかし出力ユニット数(特性値の数)が複数でいずれも連続変数の場合,通常のANNでは予測結果が不安定で不自然なことが多い.この問題を解決するために,本研究では,出力ユニットごとに独立した中間層ユニットを持つ分割型ANNを考案した.分割型ANNを利用することにより,実験結果が少ない場合にも安定で高精度に最適解を予測できる多目的同時最適化システムを構築し,そのためのコンピュータソフトウエアを開発した.この手法を応用することによって新規経皮・経粘膜吸収システムの創製を試みた. メントールのO-アルキル誘導体を出発物質として種々の化合物を合成し,QSAR手法の適用によって,薬物の経皮吸収促進活性に優れ皮膚刺激性の軽微な化合物1-O-ethyl-3-butylcyclohexanol(OEBC)を見いだした.モデル製剤としてケトプロフェン含有アルコール性ヒドロゲルを選び,複合実験計画法により抽出したモデル処方(16処方)の実験結果に本手法を適用した.その結果,ヒドロゲル処方中のOEBCと促進活性及び皮膚刺激性との間には明らかな非線形性が見られ,さらに他の処方成分との間にも非線形性が確認された.これらの非線形性は分割型ANNを利用することによって高精度に近似され,新規吸収促進剤OEBCを含有するケトプロフェンヒドロゲル製剤の処方最適化が達成された.現在,生理活性ペプチドの消化管粘膜吸収における海洋生物由来脂質の影響についてANNによる研究を進めている.
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