研究概要 |
細菌内毒素などにより誘発される末梢性炎症反応は、中枢においてサイトカイン発現、発熱、睡眠、摂食抑制などを惹起する。これらの脳への伝達経路の一つとして、求心性神経を介する系の存在が知られている。一方最近、肥満遺伝子産物であるレプチンの血中濃度が炎症反応によって上昇することが報告された。しかしながら、末梢のレプチンの中枢神経系における作用は未だ明らかではない。そこで、脳内IL-1β発現に関与する神経系,とくに迷走神経の役割を直接の求心性神経刺激を行うことにより検討するとともに,末梢のレプチンの中枢におけるサイトカイン産生系への作用について検討した。さらに脳サイトカイン発現が加齢、学習記憶障害および脳の組織化学的変化にいかに関与するかを,脳各部位におけるサイトカイン発現の加齢変化ならびに学習記憶能を指標に学習記憶障害を早期に自然発症する老化促進モデルマウス(SAM)を用いて検討を行い以下の知見を得た. 1)ラット頸部迷走神経の中枢端を求心性に電気刺激を行ったところ,視床下部IL-1βmRNA発現の増加が認められたことから,求心性の迷走神経が,少なくとも一部は視床下部におけるIL-1βの発現に直接関与していることが明らかとなった. 2)静脈内投与レプチンが脳内でIL-1βとIL-1raの発現を誘導したことから、末梢性炎症反応による中枢へのシグナル伝達にレプチンも関与している可能性が示唆された。また,OB-Rb受容体を欠損するdb/dbマウスを用いた検討から,IL-1βとIL-1raの産生にはOb-Rbレセプター以外の他のアイソフォームが重要であることが示唆された。さらにレプチンによるIL-1βの産生には、少なくともグリア細胞が関与している可能性が示唆された。 3)脳サイトカインの加齢・学習記憶障害への関与について,寿命が短く,記憶障害を自然発症する老化促進モデルマウスSAMP8を用いて検討した.SAMP8脳においてSAMP8脳のIL-1βIL-6およびTNF-αの発現は10ヶ月齢の海馬でSAMR1に比べ有意な上昇が認められた.SAMP8における学習記憶障害にサイトカイン発現の異常が関与する可能性が示唆された.
|