ストレス蛋白質(分子シャペロン)は変性蛋白質の修復あるいは分解を促し、細胞内における蛋白質レベルの品質管理を行う重要な役割を担っていることが明らかとなってきたことから、近年、病態との関連性が注目されてきている。本研究は、癌細胞転移および老化の防御におけるストレス蛋白質の役割を明らかにすることにより、生体の持つ巧妙な仕組みの解明、ならびに医療への応用を目的としており、今年度の研究において下記の結果が得られた。 老化の一因として生体内における変性蛋白質の増加が考えられており、申請者らはこれまでに、加齢に伴い脳内でストレス蛋白質のHsc70が増加することを見いだしている。加齢に伴うHsc70の増加の一因として、変性蛋白質の増加が脳内で生じていることが考えられることから、老齢ラットの脳内において、実際に変性しやすい蛋白質が増加しているかどうかを、熱安定性を指標に検討を行った。その結果熱不安定な蛋白質として、チューブリン、アクチン等が見いだされた。この中でチューブリンは、若齢に比べ老齢ラットにおいて、変性しやすい傾向にあることが示された。またHsp70はこれらの変性防御に関与していることが考えられた。このことは、長期間アルコールを摂取させ、老化を促進させたラットにおいても観察された。これらのことから、加齢に伴い脳内では変性しやすい蛋白質が増加する傾向にあるものと考えられる。
|