研究概要 |
ガンの温熱療法の作用分子機構を含めた新規有用性を提唱する目的で,培養ヒトガン細胞(線維肉腫細胞HT1080)を使用しガンの転移・浸潤と関わるマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)産生能およびマトリゲル浸潤能に対する熱ショック(温熱療法の代用として42℃にて一定時間培養後37℃に戻してさらに培養)の作用を検討した.その結果,以下のようなの成果を得た。 (1)熱ショックは膜型MMPであるMT1-MMP mRNAの減少と共にその産生を抑制し、さらに活性型ゼラチナーゼA/MMP-2の減少を誘導した。逆にMMPの内因性インヒビターであるTIMP-2の産生が促進された。また、これらの作用は正常線維芽細胞では観察されずガン細胞に特異性が高いことも判明した。熱ショックは,ガン細胞のマトリゲルインベージョン能をも抑制することが判明した。 (2)熱ショックの機能発現機序を検討し、上記浸潤活性抑制に熱ショックタンパク質の誘導とは関係のないこと、さらに熱ショックによる細胞内cAMPの一時的な上昇が密接に関わることが判明した。 (3)熱ショックによりガン細胞の産生する血管内皮細胞増殖因子(VEGF)121,VEGF165およびVEGF189)の産生が,そのmRNAの減少を伴い抑制されることも判明した.すなわち,熱ショックは,ガン組織への栄養補給ならびに血行性転移ルートとなる血管新生を抑制することも判明した. 以上、ガン温熱療法の有用性は,単にガン細胞への殺ガン作用に起因したものではなく,ガン転移・浸潤抑制作用といった新規有用性をもった治療法であることを示唆した。本研究成果の一部はConnective Tissue,33(1): 59-65(2001)およびBr. J. Cancer(投稿中)に発表した。
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