研究概要 |
酸素ストレスによるヒト赤血球の膜タンパク質の変化を解析する過程で、酸化的傷害を受けた赤血球膜タンパク質が膜に存在するセリンプロテアーゼによって選択的に分解されることを見い出している。酸化傷害タンパク質の酵素分解は、赤血球膜において酸化傷害によって変性した膜タンパク質を分解排除するという第二次防御システムとして意義あるものと考えられた。赤血球細胞質から本酵素を単離、精製し、分子量80kDaのセリンプロテアーゼであることを明かにし、一次構造を明かにするとともに、本酵素を酸化タンパク質分解酵素Oxidized Protein Hydrolase(OPH)と名付けた。 以上の研究を踏まえ、本年度の研究では、1)OPHの酸化タンパク質の切断部位,赤血球中での機能を解明した。酸化タンパク質の切断部位とコンフォメーションの関係を調べることにより本酵素の基質特異性を明かにした。酸化タンパク質のモデルとして、過酸化水素処理ウシ血清アルブミンを作成し、OPHによる切断フラグメントを得て、N-末端解析を行い、切断部位を決定した。ウシ血清アルブミンと酸化ウシ血清アルブミン(メチオニンとトリブトフアンが酸化されたことを想定)の三次元構造を比較し、切断部位が前者では埋没、後者では露出していることを明かにした。2)赤血球の体内老化における本酵素の機能を解明した。赤血球は体内老化において、酸素ストレスにより、非イオン界面活性剤不溶性band-3タンパク質が凝集し、anti-band3が結合しやすくなっていることがわかっていたが、赤血球膜に存在するOPHがband3凝集体を分解除去し、anti band3の結合を制御していることを明かにした。3)ヒト慢性骨髄性白血病K562細胞株に分化誘導剤を用いて、赤血球に分化するにつれ、本酵素の発現がどのように変化するか検討した結果、未成熟赤血球においてもOPHが発現しており、酸化ストレスを制御している可能性が示唆された。
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