酸素ストレスによるヒト赤血球の膜タンパク質の変化を解析する過程で、酸化的傷害を受けた赤血球膜タンパク質が膜に存在するセリンプロテアーゼによって選択的に分解されることを見い出している。酸化傷害タンパク質の酵素分解は、赤血球膜において酸化傷害によって変性した膜タンパク質を分解排除するという第二次防御システムとして意義あるものと考えられた。赤血球細胞質から本酵素を単離、精製し、分子量80kDaのセリンプロテアーゼであることを明かにし、一次構造を明かにするとともに、本酵素を酸化タンパク質分解酵素Oxidized Protein Hydrolase(OPH)と名付けた。更に昨年度の本研究において、酸化タンパク質の切断部位、赤血球の酸素ストレス損傷における役割を明らかにした。 以上の研究を踏まえ、本年度の研究では、1)OPHの高発現細胞の樹立を行った。すなわち、SV40oriを有するvectorを用いて、COS-7細胞にC末端側にFLAG配列を付加したOPH cDNAを導入したOPHを高発現したCOS-7細胞(COS-7-OPH)を樹立した。細胞内のOPHの存在を免疫染色法で観察したところ、酸化ストレス未惹起、惹起COS-7-OPHともにOPHは細胞質に一様に分布しており、特定の部位に局在してはいなかった。2)酸素ストレスとして、H_2O_2、tert-BuOOHおよびparaquatを負荷して、COS-7とCOS-7-OPH細胞の生存率の比較を行った。その結果、COS-7-OPH細胞はいずれの酸素ストレスに対しても有意な抵抗性を示した。3)OPHとproteasomeの役割について、proteasome阻害剤のlactacystinとMG-132を用いて検討した。その結果、lactacystinはOPHとproteasomeの両者を阻害し、COS-7とCOS-7-OPH細胞ともにpraquatに対する抵抗性が著しく阻害されたが、MG-132はproteasomeは阻害するものの、OPHは阻害せず、両細胞ともにparaquatによる抵抗性は高まった。このことから、MG-132処理によって発現したHsp70などの分子シャペロン群がOPH活性を手助けしている可能性が考えられた。
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